橋姫 その四十三
薫の君は琵琶をとって調子を合わせて、
「私が弾くとこの間ほんの少しお聞きしたのとはまるで同じ琵琶とも思えませんね。あの折の素晴らしい音色は楽器のせいなのかと思っていたのですが」
と言い、気軽には弾こうとはしない。八の宮は、
「これはまた人が悪い。そんなお耳にとまるような弾き方などがどこからこんな山里に伝わってくるものですか。とんでもないお言葉ですよ」
と言い、琴を掻き鳴らす。その音色は本当に心にしみるようにもの淋しく聞こえる。一つには峰の松風が琴の音色を引き立てているのでしょう。八の宮はさもたどたどしそうに思い出せないふりをして風情のある一曲くらいで弾くのを止めてしまった。
「この私の邸ではどうしてか時折かすかに耳にする筝の琴の音がいくらか心得があるように聞こえることもありますが、娘たちの弾くのを気にとめて聞いてやるということもしないまま、長い歳月が過ぎてしまいました。自分たちで自己流にそれぞれ掻き鳴らしているようですが、川波くらいが調子を合わせてくれているのでしょう。どうせろくに拍子もとれないでもちろん役に立つまいと思いますが」
と言うのだった。
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