橋姫 その四十一
十月になって、五、六日の頃、薫の君は宇治へ出かけた。
「網代の季節でございます。ぜひご覧ください」
と言う人々がいたが、
「何の、氷魚ではないが朝生まれて夕べに死ぬ命の蜉蝣よりもはかない身の上で今更網代を見物しに行って何になろう」
とそちらのほうははぶかれて、いつものようにとてもひっそりと出かける。手軽に網代車に乗り、無紋の直衣や指貫を仕立てさせ、ことさらお忍びらしい身支度をする。
八の宮は薫の君の訪れを歓待して、山里にふさわしい料理など趣向を凝らして用意した。日が暮れてからは灯火を近く寄せて前々から読んでいる経典の深い意味などについて山から阿闍梨にもおりてきてもらって講義をさせる。
夜が更けてもまんじりともせずにいると、川風がとても荒々しく吹く中に木の葉の乱れ散る音や流れの響きなどが風雅も通り越して恐ろしいほどの心細さに誘われるところなのだった。
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