橋姫 その三十二

 薫の君は何とも不思議でまるで夢のお告げの話か巫女の神がかりになって問わず語りでもするのを聞かされているように珍しいことと思うが、いつも切なく気にかかっていた不審なことに関しているように言うので、もっと聞きたいと切に思ったが、確かに今は人目も多いことだし、だしぬけに昔話に関わりあって徹夜をしてしまうのも無作法なように思うので、



「これといってはっきり思い当たることもありませんが、昔の話だと聞くにつけてもなんだか懐かしくしんみりします。それではいつかきっとこの話の続きをきかせてください。霧が晴れていったらきまりの悪いような見苦しい姿も姫君たちに失礼だとお咎めを受けそうなありさまですから、このまま心ならずも失礼します。残念至極なのですが」



 と言って立つと、あの八の宮の籠る寺の鐘の声がかすかに聞こえて、あたり一面に霧が深く立ち込めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る