橋姫 その三十三

 八の宮の籠っている山の峰々は幾重もの雲に隠され隔てられているようで悲しいのに、ましてこの姫君たちの心はどんなに切ないだろうと気の毒で、



「さぞかしあらゆる物思いを味わい尽くしていらっしゃることだろう。こうしてひどく引き籠って思案にお暮しなのも無理はない」



 と薫の君は思うのだった。




 あさぼらけ家路も見えず尋ね来し

 槙の尾山は霧こめてけり




「心細いことです」



 と帰りかけて引き返し、立ち去りにくそうに佇んでいるその姿は洗練されたこうした貴人を見慣れている都の人でさえ、やはり格別素晴らしいと思っているのだからなおさらのこと、この山里の女房たちの目にはどれほど稀有な美しさと映ったことだろう。返歌は女房たちが気後れして取次ぎも出来かねているので、また前のように大君がひどく遠慮がちに、




 雲のゐる峰のかけ路を秋霧の

 いとど隔つるころにもあるかな




 と返し、ほっと溜息を洩らす気配はしみじみと胸をうつのだった。

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