橋姫 その二十五
「撥で月が招けないかもしれないけれど、でも撥を納めるところを隠月というから、月と縁がないとは言えないでしょう」
など他愛なく冗談を言い合い、くつろいで興じている二人の様子はよそながら想像していたのとはまるで違っていて、本当にいじらしくやさしく魅力がある。
昔物語などを若い女房たちが読むのを聞くと、必ずこんなふうな話がある。まさかそんなことはあるはずがない、嘘に決まっているとつい反感を抱いたものだが、なんとこの世にはこんな情趣深いことが隠されていることもあればあるものよと薫の君は姫君たちに心が惹かれることだろう。
霧が深いので、姫君たちの姿ははっきり見えそうもない。またさっきのように月が出てほしいと思ううちに、奥のほうから、
「お客様がいらっしゃいました」
と知らせた女房がいたのか、急に簾を下ろしてみんな奥へ入ってしまった。慌てた様子でなく、しなやかな身のこなしでそっと隠れた二人の様子は衣擦れの音もたてず、痛々しいほどなよやかな感じで、この上なく高貴にも優雅だ。薫の君はしみじみ心を打たれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます