橋姫 その二十五

「撥で月が招けないかもしれないけれど、でも撥を納めるところを隠月というから、月と縁がないとは言えないでしょう」



 など他愛なく冗談を言い合い、くつろいで興じている二人の様子はよそながら想像していたのとはまるで違っていて、本当にいじらしくやさしく魅力がある。


 昔物語などを若い女房たちが読むのを聞くと、必ずこんなふうな話がある。まさかそんなことはあるはずがない、嘘に決まっているとつい反感を抱いたものだが、なんとこの世にはこんな情趣深いことが隠されていることもあればあるものよと薫の君は姫君たちに心が惹かれることだろう。


 霧が深いので、姫君たちの姿ははっきり見えそうもない。またさっきのように月が出てほしいと思ううちに、奥のほうから、



「お客様がいらっしゃいました」



 と知らせた女房がいたのか、急に簾を下ろしてみんな奥へ入ってしまった。慌てた様子でなく、しなやかな身のこなしでそっと隠れた二人の様子は衣擦れの音もたてず、痛々しいほどなよやかな感じで、この上なく高貴にも優雅だ。薫の君はしみじみ心を打たれるのだった。

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