橋姫 その二十六

 やがてそっとそこを離れると、京の邸に帰りの車を引いてくるようにと使者を走らせた。さっきの宿直の男に、



「折悪しくお留守に参上したが、かえってうれしいことがあって日頃の憂鬱な気持ちも少しは慰められた。こうして私のお伺いしたことを姫君に申し上げておくれ。すっかり夜露に濡れてしまったという愚痴も聞いていただきたいものだから」



 と言うので、男は姫君の側に行ってそれを伝える。


 姫君たちはまさかそんなふうに見られてしまったとは思いもよらず、すっかりくつろいで弾いていた合奏の音ももしや聞いていたのではないかととても恥ずかしくてたまらない。そういえば不思議に芳しく匂う風が吹いてきたのに、よもやと思い気づかなかったとは何とも迂闊なことだったとどうしていいかわからずおろおろとしてただ恥ずかしがっているのだった。

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