橋姫 その二十四

 姫君の部屋に通じているらしい透垣の戸を薫の君が少し押し開けて見ると、部屋の簾が短く巻き上げられて、月に霧がたなびいている美しい空を眺めているお付きの女房たちが見える。


 簀子にとても寒そうにほっそりした身体に糊気の落ちた古びた衣装をつけた女童が一人と同じ様子の大人の女房たちがいる。部屋の奥にいる姫君の一人が柱に少し隠れて座って、琵琶を前に置いて撥を手で弄んでいた。


 そのとき、雲に隠れていた月が急に明るく華やかに射しこんできたので、



「扇ではなくってもこの撥でも月は招けそうですわ」



 と言いながら空を仰いで撥をかざして月を覗いている顔が照らされた。それは言いようもなく愛らしくつややかで美しい。その横に物に寄りかかっているもう一人の方は琴の上に体を傾けて、



「夕日を呼び返す撥のことは舞楽にもあって知っているけれど、あなたは変わった思い付きをなさるのね」



 と言ってほほ笑んだ感じはまたひときわ落ち着きがあり、品位の具わった嗜みが感じられるのだった。

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