竹河 その六十

 三位の中将は今でもまだ院の御息所への恋心を捨てられず、情けなくもつらくも思いながら一応左大臣の姫君と結婚したが、その人にはまるで愛情を覚えず、〈道の果てなる常陸帯の〉と手習いに書いたり口ずさんだりしているのは、〈かごとばかりも逢ひみてしがな〉という少しでも逢いたいものよとの下の句意味を望んでいるつもりなのだろうか。


 御息所は気苦労の多い宮仕えのわずらわしさに、里に下がる日が多くなった。玉鬘の君は思うようにはいかなかったこの人の身の上を残念なことに思う。宮中に上がった中の君はかえって華やかに楽しそうに暮らして、いかにも雅やかで奥ゆかしいという評判を得ているのだった。

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