竹河 その四十六

 その年が改まって、宮中では男踏歌が行われた。近頃は殿上の若い人達の中に歌舞音曲の芸達者がそろっている時だ。その中でも特に芸に優れた人達を選び、薫の君は踏歌の右の組の歌頭になった。あの蔵人の少将も楽人の中に加わっていた。


 十四日の月がはなやかに曇りなくさしている頃に、踏歌の一行は宮中の帝の御前から退出して冷泉院の御所へ参る。


 女御も今は御息所と呼ばれている大君も院の御所に御座席を用意して見る。上達部や親王たちも連れ立って参上した。夕霧の右大臣と亡き前太政大臣の一門の他には光り輝くような貴公子はいない時勢のように見える。


 宮中の帝の御前よりもこの冷泉院の方をずっと緊張する特別の場所と思って誰もが皆とりわけ心遣いをする中でも、あの蔵人の少将は御息所が簾中から見ているだろうと察して、気もそぞろに落ち着かない。ただ白いだけの匂いもしない見栄えのしない挿頭の綿花も挿す人によって違うもののように見え、少将の姿も声もとても趣が深いのだった。

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