竹河 その四十五

 とはいうものの、大君への冷泉院のこの上もない寵愛は月日とともに深まっている。


 七月には懐妊した。悪阻で苦しそうにしているその美しさといったら確かにあんなにも人々がいろいろとうるさいほど言い寄られたのも無理はない、どうしてこんな美しい人を平気でただに見過ごし聞き過すことができようかとうなずく。


 冷泉院は明け暮れ音楽の遊びを催しては薫の君も側近く来させるので、簾中で大君の弾くお琴の音なども聞く。あの五日の「梅が枝」に会わせて弾いた中将のおもとの和琴も、いつも呼び出して弾かせるので、それを聞き合すにつけても薫の君はあれこれ思い出して平静でいられないのだった。

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