竹河 その四十一
源侍従薫の君を冷泉院は明け暮れ午前に呼び寄せて放さず、ちょうど昔の光源氏が小さい時の桐壺帝との関係に劣らない寵愛ぶりでいる。
薫の君は院の御所の内ではどの后妃の人々にも親しくして隔てなく付き合っていた。
この大君にも好意を寄せているような様子を見せながら内心自分のことをどう思うだろうかと意識している。
夕暮のしめやかな時に藤侍従と連れ立って院の庭を散策しながらあの大君の部屋が近くに見える庭前の五葉の松に藤の花がとても美しく咲きさがっているのを遣水のほとりの苔むした石に腰を下ろして、しんみりとした思いで眺めていた。あまりはっきりとではなく大君への恋が叶えられなかったことなどをそれとなくほのめかして話すのだった。
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