竹河 その二十五

 夕暮の霞に紛れて、はっきりとは見えないものの、よくよく目を凝らすと、桜色の衣装の色目からもあの人と見分けられた。


 本当に花の散りはてた後、花の形見としてみたいものと思うほど華やかに美しく見える。蔵人の少将はこんな美しい人がむざむざ人のものになってしまわれてはとますますたまらない思いがつのる。若い女房たちのくつろいでいる姿も夕暮の薄明かりに映えて美しく見える。勝負は右の中の君が勝った。



「高麗の乱声が遅いわね」



 などはしゃいで言う女房もいる。右が勝った時に言う高麗楽のことを調子に乗って冗談で言っているのだ。



「もともとあの桜は右に味方して中の君の西のお部屋の近くにありますのに、無理に左のものだとおっしゃったりして、だから長年争ってきたのですもの」



 と、右方は得意そうに中の君に加勢するのだった。

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