紅梅 その十四

「今夜は宿直なのだろう。このままここで泊まっておいで」



 と、そこに引き留めて放さないので、東宮に行くこともできない。差し上げた梅の花も恥ずかしくなるほどいい薫物の匂いのする匂宮の側近くに眠らせてもらったのが、若君の子ども心にもこの上なくうれしくて、匂宮をなつかしく慕うのだった。



「この花の贈り主はどうして東宮に差し上げなかったのだろう」



 と匂宮が聞くが、若君は、



「私は存じません。ものの心のわかるお方に差し上げたいとか聞きましたが」



 などと答える。


 大納言は、自分の実の娘の中の姫君をと考えているようだと、匂宮は思い合わせているが、匂宮自身の関心は別の人にあるので、この手紙の返事はそうはっきりとは気持ちを示さないのだった。

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