紅梅 その九

 たまたまそこに若君が宮中に参内しようとして、直衣の宿直姿でいた。ことさらきちんと結い上げた角髪よりも下げ髪にしているのがとても風情があるので、大納言は可愛らしいと思う。麗景殿にいる北の方へ大納言は言伝した。



「あなたに女御のことはお任せすることにして、私は今晩も参内できそうもないほど気分がすぐれないからと申し上げてくれ」



 と言い、



「横笛を少し吹いてごらん。何かというと帝の御前での演奏にお召しにあずかるのがはらはらさせられるよ。まだほんとに未熟な笛なのに」



 と笑顔になり、双調の曲を吹かせる。若君がとても上手に吹いたので、大納言は、



「少しはましになってきたのはこちらなどで何かの折につけ自然に合奏させていただいているせいだろうね。同かいつものように合奏して聞かせてください」



 とねだるので、宮の姫君は迷惑らしい様子だが、爪弾きで横笛に上手に合わせて軽く本の少し弾いた。大納言も太く物慣れた音の口笛を吹くのだった。

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