幻 その二十五
命日には身分の上下なく人々が皆、精進潔斎した。あの紫の上の曼陀羅などを今日こそと供養する。
例の初夜の勤行のとき、光源氏の手水を差しだす中将の君が扇に、
君恋ふる涙は際もなきものを
今日をば何の果てといふらむ
と書きつけてあるのを光源氏が手に取って見て、
人恋ふるわが身も末になりゆけど
残り多かる涙なりけり
とその扇に書き添えるのだった。
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