幻 その二十四
七月七日の七夕の夜も例年と変わったことが多くて音楽の遊びもしないで、光源氏は一人で所在なく終日物思いに沈んでいた。七夕の星の逢瀬を眺める女房もそばにいない。
まだ夜深いのに一人だけ起きて妻戸を押し開けると前庭の草に夜露がしとどおりて光っているのが渡り廊下の戸口から向こうにずっと見渡すので、縁側に出て、
たなばたの逢瀬は雲のよそに見て
別れの庭に露ぞおきそふ
と詠む。
風の音さえただならず心に沁みいるようになって秋も深まっていくころ、紫の上の一周忌の法事の支度で、八月初めのころは何かと取り紛れているようだ。
これまで紫の上の亡きあとをよくも生き永らえてきた月日よと思うにつけても我ながら呆れる思いで日を明かし暮らしているのだった。
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