夕霧 その九十

 夕霧は六条の院に居て休息する。花散里は、



「女二の宮を小野から一条にお移しになさったと北の方のお里あたりでお噂していますが、いったいどういう御事情なのですか」



 といかにもおっとりと言う。御簾に几帳も添えての対面だが、その端からちらちら姿が見えていた。



「やはりそんなふうにまだ世間から噂されるような事情なのです。私と女二の宮の結婚を亡くなられた御息所は大変気強く、とんでもないことのようにきっぱり反対なさいましたが、もうご臨終というときにお気持ちも弱られ、他に女二の宮のお世話をお頼みになられる人もいないのを悲しくお思いになったのか、ご自分の死後は女二の宮の御後見を私がするようにとおっしゃったことがありました。もともとこちらはそういうつもりがあったことですからこうして引き受ける気になったのを人はあれこれとどんなふうに取沙汰しているのでしょうか。それほど騒ぎ立てるようなことでもないのに、火とは妙に口さがないものでして」



 と笑うのだった。

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