夕霧 その八十九

 女二の宮は本当に心が沈みこんで何という思いやりのない浅はかな女房たちの心根なのかと口惜しく恨めしいので、幼稚なふるまいと人に言い立てそしられ手も構うものかと思う。塗籠の中に敷物を一つ敷かせて内側から錠をかけて眠った。


 こんなことをしてもいつまで守り切れることか、もうこんなにまで礼節を失い乱れ切ってしまった女房たちの気持ちは何という情けなく悲しいものかと口惜しくてならない。


 夕霧はあまりにも心外な恨めしいなりようだと怒って文句を言いながらも、こうなってはもうどうしたって女二の宮は逃れようがあるものかと高をくくって気楽にあれこれと考えながら夜を明かした。


 まるで谷を隔てて別々に寝るという山鳥の夫婦のような気持ちがする。ようやく明け方になった。こんなことばかりしていればただにらみ合いになるばかりなので、夕霧は帰ろうとして、



「せめてほんの少しの隙間だけでも開けてください」



 としきりに頼むが、女二の宮からは何の返事もない。




 恨みわび胸あきがたき冬の夜に

 また鎖しまさる関の岩門




「申し上げようもない冷たいお心ですね」



 と言って、泣く泣く帰るのだった。

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