夕霧 その九十一

「当の女二の宮本人はどうしても俗世の生活はなさりたくないと強くご決心をなさり、尼になろうと思いつめて悩んでいらっしゃるようですから、なかなかどうしてそんな噂のようなことがありましょう。あちらこちらで聞き苦しい噂も立てられるでしょうが、そういうふうに出家なさって私の嫌疑が晴れるとしましても、やはり私はあのご遺言に背かないようにと存じまして、ただこうしていろいろお世話しているのです。光源氏様がこちらにいらっしゃいました折にでも何かのついでがおありでしたら今申し上げたようにお伝えください。今まで真面目に過ごしてきてこの年になってあげくの果てにつまらぬ料簡を起こしたように光源氏様がお思いになられはしないかと気兼ねをしながらもまったくこの道ばかりは人の忠告も耳に入らずまた自分の心なのに思うようにならぬものなのですね」



 と声をひそめてしんみりと言うのだった。

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