夕霧 その六十四

「やはりこんなふうに隠し事をして何も打ち明けてはくださらない」



 と、「草葉の露のあわれ」などはともかくとして、雲居の雁は一方ならず悩み悲しんでいる。


 夕霧はこんなふうに女二の宮の気持ちがはっきりしないのが気がかりでならず、また小野へ出かけて行った。御息所の四十九日の忌明けが過ぎてからゆっくりと訪ねようと気持ちをおさえていたが、とてもそれまでは我慢できず、



「今ではもうあらぬ浮き名を立てられてしまったのに、何をいまさら強いて噂を拒否することがあるだろうか。ただ世間の男並みに振舞って最後にはこの思いを遂げるまでのこと」



 と決心した。雲居の雁の疑いも強いて打ち消そうとはしない。



「女二の宮自身は強硬に拒まれたところで、あの『ひと夜ばかりの』契りで捨てるとは許せないと言った御息所の怨嗟のお手紙を楯にとって掻き口説けばよもやふたりの仲を潔白だと押し通すことはできないだろう」



 と、それを頼りにして心強く思っているのだった。

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