夕霧 その四十七

 このまますぐ小野に出掛けたかったが、



「女二の宮はたやすく会ってくださらないだろう。御息所はああもおっしゃっていられることだし、いったいどうしたらいいだろう。今日はちょうど陰陽道で諸事万端を忌み嫌う凶日に当たっていることだし、もし万一にも女二の宮のことが許されてこんな縁起の悪い日に縁が結ばれるようなことにでもなっては、将来不都合なことが起こっても困るし、ここはやはり何事も無難なようにしたほうがいい」



 と几帳面な性格から考えて、とりあえずこの返事を出すことにする。



「実に珍しいお手紙をちょうだいして、様々にありがたく拝見いたしましたところ、このお叱りだけはどうしたことかと心外に存じます。どのようなことをお聞きあそばしたのでしょうか。




 秋の野の草のしげみは分けしかど

 仮寝の枕むすびやはせし




 言い訳をして潔白を証明することも筋の通らないものでございますが、昨夜お伺いしなかった失礼へのお咎めは黙って甘受しなければならないのでしょうか」



 と書く。別に女二の宮へはこまごまと長く書いて厩の駿馬に鞍を置いて、あの晩のお供の右近の将監を使いに出す。



「昨夜から六条の院に伺っていて、たった今邸に戻りました、と言え」



 と言って、口上の言葉をひそひそと教えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る