夕霧 その四十八

 小野の山荘では昨夜も来なかった薄情な態度に耐えかねて、御息所は後々の世間の評判を気にする余裕さえもなくなり、恨みを込めた手紙を出したのに、その返事さえもまだ寄越さず今日も暮れ切ってしまったのだった。いったい夕霧はどういうつもりなのかと愛想もつきはて、あまりのことにすっかり落胆して、少しはよくなっていた病状もまたぶりかえし、とてもひどくなった。


 女二の宮自身はかえってこんな夕霧の仕打ちをことさら情けないこととも思わず、心を騒がせることでもない。ただ思いもかけない人に不用意な姿を見られたことだけが残念でならない。それさえさほど気にもしていないのに御息所がこんなにひどく悲しんでいるのが思いがけず恥ずかしく思う。といって真実を事をわける方法もなくて、いつもよりなんとなく決まりが悪そうにしている。


 御息所にはそんな女二の宮の様子が本当に痛々しく思われて辛くてならない。次から次へと心労ばかり重なっていくような身の上だと見るにつけても、女二の宮がかわいそうで胸もいっぱいに詰まって悲しくてならないのだった。

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