夕霧 その四十三

 かつて六位風情と夕霧を蔑んだ大輔の乳母はいたたまれない思いがして黙っている。あれこれと言い合っているうちに雲居の雁がこの手紙を隠してしまったが、夕霧は無理に探して取り上げようともせず、さりげなく眠ったものの、内心はいらいらしながら、



「何とかしてあれを取り戻したいものだ。御息所のお手紙に違いない。いったい何が書いてあったのだろうか」



 と眠ることもできず考えながら横になっている。


 雲居の雁が眠っている間に、昨夜雲居の雁が敷いていた敷物の下などをそれとなく探ってみたが見当たらない。隠す時間もなかったはずなのにとひどく気が揉めて、夜を明かしたが、それと悟られないためにすぐには起きない。


 雲居の雁が子供たちに起こされて帳台から這い出てきたので、夕霧も今目覚めたようなふりをして辺りをそっと探してみたが、見つけることはできない。雲居の雁のほうは夕霧がこんなふうに探そうとも思っていないので、なるほどあれは本当に恋文ではなかったのだともう気にも留めていない。子供たちが騒々しく飛び回るやら人形に着物を着せたり並べたりして遊ぶやら本を読む子や、習字をする子などいて、それぞれの相手にとても忙しいのだ。小さな子は這いまわって雲居の雁の着物を引っ張ったりするので、雲居の雁は取り上げた手紙のことなどさっぱり思い出さないのだった。

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