夕霧 その三十四

 今度のことだけでなく、柏木と思いがけない結婚をして以来、どれほど御息所に心配ばかりかけてきたことかと、女二の宮は生きている甲斐もないと思い続けるのだが、



「あの夕霧はこのままではあきらめないで、これからも何やかやと付きまとっていいよってこられるだろう。そうすればどんなに厄介で聞き苦しいことばかり増してゆくだろう」



 と、あれこれと心配になる。まして意志が弱く、もしあの人の甘言に乗っていたらどんな汚名を流すことになったか。とにかく低層を守り、潔白だったことに少しは気持ちも慰められる点はあった。けれども自分のように高貴な身分の者があんな風に迂闊に男に会ったりしてはならなかったのにとつくづく自分の不幸な運命を嘆いていた。


 その夕暮頃、御息所から、



「やはりおいでください」



 と催促があったので、御息所の病室と女二の宮の間の塗籠の戸を両方から開けてそこから御息所のほうへ行くのだった。

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