鈴虫 その二十
昨夜はそっと人目を忍んで身軽に出かけたが、今朝はそのことがすっかり世間に知れ渡ってしまったので上達部なども冷泉院に参上していた人々は残らず光源氏のお供に加わって見送りをする。
光源氏は明石の女御を大切に育て上げた甲斐があって東宮の母女御として世にならず者もなく立派でいたのもまた夕霧が人には似ない格別の優れた様子もどちらもとともに満足に思うのだが、やはりこの冷泉院を思う心情にはどの子に対してよりもひときわ深い思い入れがあった。
冷泉院のほうでも始終光源氏のことを心にかけているが、対面の機会もめったになく、それが不満で気持ちが晴れないこともあって、退位を急ぎ、こうした気楽な境遇にと考えたのだろう。
秋好む中宮は今ではかえって六条の院に里帰りすることもとても難しくなり、普通の夫婦のようにいつも一緒に暮らして当世風にかえって在位中の昔よりもはなやかに管弦の遊びもする。
秋好む中宮は何事も満足いく立場でありながらただあの母御息所のことを考えては出家したいという気持ちがますます深くなるが、光源氏が許すはずもないので、もっぱら母御息所のために追善供養をして、世の中の無常を悟る気持ちもますます深くつのっていくのだった。
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