夕霧

夕霧 その一

 世間には堅物という評判をとっていかにも分別ありげな態度を見せていた夕霧も、この一条の女二の宮の様子を、



「やはり申し分ないお方だ」



 と思い込んで心を惹かれていた。世間の手前は亡き柏木との深い友情を忘れない真心からのように見せかけながら心を込めて新設に訪ねる。内心ではとてもこのままではすまされそうにないと、月日が経つにつれて女二の宮への恋心がつのるばかりだった。


 一条の御息所も、



「何とまあ親切な、世にも珍しいほど誠実な人もあるものか」



 と思い、今ではいっそう物寂しく所在ない日々を絶えずこの夕霧が訪ねることで心の慰められることもいろいろ多いのだった。


 夕霧ははじめから色めいた素振りは見せなかったのに、今更急に打って変わって色めかしく振舞うのもきまりが悪いと思い、



「ただこちらの深い真心の限りをお見せさえしていれば、いつかは打ち解けてくださる時があるかもしれない」



 と思い適当な機会があると、それにかこつけて女二の宮の様子や態度に気を配っている。


 ところが女二の宮は自身で直接返事をするようなことは全くないのだった。

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