鈴虫 その十八
秋好む中宮の母六条の御息所があの世で苦しみを受けてどんなにひどい地獄の業火の煙の中にさまよっていることか、亡くなった後まで人に嫌われるような物の怪になって名乗り出たりするとかいうことを光源氏はひた隠しにしているのに、世間の口はとかくうるさくて噂に聞いてからは、秋好む中宮はとても悲しくて辛く、すべてこの世の中のことが疎ましくなり、たとえ物の怪の姿にせよ、六条の御息所が何を言ったかという様子を詳しく聞きたいのに、それをまともに言いにくくて、ただ、
「亡き母があの世では罪障が深くて苦しんでいるとかすかに噂に聞いているのですがそんな証拠がはっきりあるわけでもなくても娘の私としては当然、それに気づかなければならないのに、母に先立たれた悲しみばかりが忘れられなくて母の後世の苦しみにまで思いやることができず冥福を祈らなかった私の浅はかさが悔やまれてなりません。何とかして、そのあたりの道理をよく説き聞かせてくれる人に導かれて、せめて私だけでも亡き母上の身を焼く妄執の炎をさましてあげたいと次第に年を取るにつれて深く考えるようになってまいりました」
など、それとなく出家の望みを言うのだった。
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