横笛 その二十二

 夕霧もあの夢を思い出すと、



「この笛は厄介な品のようだな。あの人の執念の籠っているものが納まるべきところへは行かず、女二の宮のほうから自分へ伝授されたのでは何の甲斐もないことだ。柏木の霊は何と思っただろう。生存中はあまり気にもかけていなかったことでも、あの臨終の際に一途に恨めしいとかいとしいとか思い込んだ執念にまつわりつかれるとそれに引きずられて後々まで無明長夜の闇に迷うものだと聞いている。だからこそ何事にもこの世に執着を残すまいと考えているのだ」



 などと思い続けて、愛宕の寺で柏木のために誦経をさせたり、また柏木が帰依していた寺でも誦経をさせた。



「この横笛を御息所から亡き人に由緒の深い品としてわざわざ私に贈られたのに、たちまち寺に寄進してしまうのも尊いこととは言いながらあまりにあっけないことだ」



 と思って、六条の院に参上したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る