横笛 その十九

「もしお目にかかってみて御器量でも悪かったらそれこそ実にお気の毒なことになるだろう。だいたい何事によらず世間の噂というのは最高という評判のものほど期待外れで実にがっかりさせられるのが落ちだから」



 などと考える。自分たちの夫婦仲が浮気沙汰の嫉妬でいがみ合うようなこともなく仲睦まじく過ごしてきた長い年月を数えてみると、しみじみ感慨が催され、雲居の雁がこんなふうにすっかり我が強くなり威張り放題にしているのも無理もないかという気がするのだった。


 夕霧の少し寝入った夢の中にあの柏木が最後に会った時とそのままの白い袿姿で傍らに座っていて、この横笛を取り上げてみている。夢の中でも夕霧は厄介なことに亡き柏木がこの笛に執着していて、笛の音に誘われて出てきたなと思っていると、柏木が、




 笛竹に吹き寄る風のことならば

 末の世長きねに伝へなむ




「あなたとは違う、他に伝えたい人があったのです」



 と言うので、それは誰かと尋ねようとすると、若君が夢におびえて泣き出し、その声に夕霧は目を覚ますのだった。

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