横笛 その十八

「こんないい月夜にのんびり夢を見ている人があるものか、少しこちらに出てごらん。ああまったくつまらない」



 など言うが、雲居の雁は機嫌が悪くて聞こえないふりをしている。


 若君たちがあどけなく夢におびえた寝ぼけ声をあちこちでたてているし、女房たちも大勢ごたごたと混みあって寝ている様子はいかにも人気が多くて賑やかで、さっきまでいた一条の邸の閑寂な有様と思い比べるとまるで別世界だ。夕霧はさっきの横笛を吹き、



「あちらでは私の帰ったあともあのまま、またどんなにか物思いにふけっていることだろう。お琴はあのままどれも調子を変えず、弾き続けているだろうか。御息所も和琴がお上手だったし」



 など想像しながら横になっている。



「それにしれも亡くなった柏木は女二の宮を上辺の心遣いだけは大切にお扱いながら、実のところはどういうわけでさほど深くも愛していらっしゃらなかったのだろう」



 と思うにつけてもどうも納得がいかないのだった。

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