ライトノベル風『源氏物語』

横笛 その十三

　折から月がさし昇り、曇りなく澄み切った空に仲良く羽をうち交わしながら飛んでいく雁が仲間の列と離れず鳴くのを耳にして、女二の宮はさぞ羨ましく思うだろう。

　風が肌寒く、もの悲しいのに誘われて女二の宮は手許の筝の琴をとてもほのかに掻き鳴らした。その音色はいかにも深みがあったので、夕霧はますます心を奪われてかえってほのかに掻き鳴らす程度では物足りなく思い、自分で琵琶を引き寄せて何とも言えない親しみのある音色で想夫恋を弾いた。

「お心のうちをお察し顔にこの曲を弾きましたのは恐縮でございますけれど、この曲なら柏木を共に恋い偲んで何か一言おっしゃってくださってもよいではございませんか」

　とひたすら御簾の中の女二の宮に向かって誘うのだが、曲が想夫恋であるためになおさら返答は遠慮されることなので、女二の宮はただしみじみひとり物思いにふけるばかりだった。

　言に出でて言はぬも言ふにまさるとは

　人に恥ぢたるけしきをぞ見る

　と言うと、女二の宮は想夫恋の終わりのほうだけをほんの少し弾いて、

　深き夜のあはればかりは聞きわけど

　琴よりほかにえやは言ひける

　と詠むのだった。