横笛 その十四

 和琴というものはいったいにおっとりした音色だが、さすがに亡き人が心をこめて弾き伝えてきただけあって同じ曲の想夫恋なのに女二の宮が荒涼としたこの邸で弾くと感動深くしんしんと胸に迫るようだ。


 夕霧はいつまでももっと聞いていたい思いなのに女二の宮はほんの少しだけを掻き鳴らしてやめてしまったので、恨めしいほど心残りに思った。



「何やかやと弾き散らしてもの好きなところを見透かされてしまいました。秋の夜を遅くまでお邪魔いたしますのも亡きお方のお咎めがあるかもしれませんので、ご遠慮してお暇いたします。また改めて失礼のないようお伺いいたしますので、このお琴などの調子はこのままにしてお待ちくださいませんか。琴も約束もひき違えることもある世の中ですから、心配でなりません」



 など、露骨にではなく、心のうちをほのめかして帰るのだった。

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