柏木 その五十

「ところが結局こんな夢のような悲しい目にあって考えを言い張ったらよかったのにと思います。今となってはやはりとても悔やまれます。あの時強く反対しなかったのは、本当にまさかこんなことになろうとは思いもよらなかったのでございます。いったい皇女という方々はよほどのことでなければ良くも悪くもこんなふうにご結婚なさいますことは奥ゆかしくないことと私のような旧弊な頭では思っていたのですが、どちらともつかない中途半端な不幸な御運でいらっしゃるなら、いっそこうした折に跡を慕って同じ煙になってお亡くなりになったほうがご本人にとって世間の評判などは夫の跡をおったということでかえって同情されてむしろ世間体は悪くないかもしれません。けれどもそう申しましてもそんなにさっぱりとは思いきることもできず、悲観しておりましたところ、本当にうれしいことに御懇切なお見舞いを度々ちょうだいいたしましたようで、この上なくありがたく感謝申し上げております。それでは臨終の折にそんなお約束がございましたからでしたか。生前あのお方はそれほど深くこちらの女二の宮に愛情がおありのようには見えないご態度でしたけれど、臨終の際に誰彼にこちらの身やのことをお頼みくださったという遺言が身にしみまして、こんな悲しみばかりの中にもまたうれしい慰めもあるものでございました」



 と言って、ひどく泣く様子だった。

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