柏木 その四十五

 そのあと適当な機会もなくて光源氏にもまだ話すことができなかった。とは言え、いつかは、



「亡き柏木がこんなことをほのめかしておりました」



 と話していて、顔色を窺ってみたいと思っている。


 柏木の父大臣と母北の方は涙の乾く暇もなく悲しみに沈み切ってはかなく過ぎていく日数さえもわからないのだった。それで法事にために法服や衣装、そのほかあれこれの支度などもみんな弟君たちや姉妹の方々がそれぞれに準備した。その日のための経や仏像の飾りの指図などもすぐ下の弟君の左大弁の君がする。


 七日事の誦経のことなども人々から注意しても父大臣は、



「そんな話は私に聞かせてくれるな。これほど身も世もなく嘆き悲しんでいるのに、この上心を苦しめたらそれがかえって亡き人の成仏の妨げになるだろう」



 と言い、まるで自分が死人のようにぼうっとしているのだった。

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