柏木 その四十四

「やはり昔から絶えず柏木は女三の宮に対する恋心を素振りにほのめかしていたし、そういえばそれを抑えかねる折節さえ確かにあったのだ。うわべはいたって冷静なふりをしていて一人よりはるかに注意深く穏やかで、この人は心の中でいったい何を考えているのだろうとはかりかねて、はたの者は気づまりなくらいだったが、やや情に溺れやすい面があって、あまりにも心が弱弱しく優しすぎるためにこんなことになったのだろうか。どんなに切なくても道に外れた恋に悩み苦しんでこのように命に代えてしまってよいことだろうか。相手の人に対してもお気の毒なことだし、その上自分の身まで破滅してしまってよいものか。そうなるべき前世からの因縁とは言いながらいかにも思慮の浅い軽々しい振舞いでつまらない結果になってしまったものだ」



 などと自分一人の心の中では考えるが、北の方の雲居の雁にもその感慨を洩らすことはないのだった。

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