柏木 その四十六

 一条の女二の宮はなおさらのこと悲しみも深く、臨終にも目にかかれないままで死別した恨めしさまで悲しみに加わって日数が過ぎるにつれて、広い御殿のうちは人の気配も少なく、心細そうにひっそりと暮らしている。


 柏木の生前、側近く仕えていた人たちは今もやはりお見舞いに来ている。故人が可愛がっていた鷹や馬を預かっていた係の者たちが皆担当の役を失って気落ちしながらそれでもさすがにたまに出入りしているのを見るにつけても、女二の宮はあれこれと悲しみが尽きないのだった。


 常に使っていた道具類やいつも弾き鳴らしていた琵琶や和琴なども絃もみすぼらしく取り外されたまま音もたてずに放置されているのがまったく陰気なわびしい有様だ。


 庭前の木立が一面に新芽をふいて煙るように見え、花は時を忘れず今年も吹く風情をぼんやりと眺めながら仕える女房たちももの悲しい気持ちになり、鈍色の喪服をまとい寂しい所在ない気分のままいるのだった。

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