柏木 その二十八

 病床の周りは清潔に片付いていて、あたりに薫物の香りがかぐわしく漂い、奥ゆかしく住んでいる。病人なのでくつろいでいても嗜みを保っている様子が夕霧の目には映る。重病人といえば自然、髪や髭も乱れ伸び、何となくむさくるしいところも見えてくるものなのに、この病人は痩せさらばえているのにかえってますます色が白く、気品高い姿だ。枕を立ててそれに寄り掛かり、話す様子が見るからに弱弱しそうで、息も絶え絶えになり、どうにも痛々しくてならない。夕霧は、



「長い間、患っていらっしゃるにしては格別ひどくおやつれにもなっていらっしゃいませんね。お元気な時よりかえって一段と男ぶりがあがられたようですよ」



 というのも、涙をおし拭って、



「私たちは遅れたり先だったりという隔てもなくとお約束したではありませんか。それなのに、何という悲しいことになったのでしょう。この病気が何の原因でどうしてこんなに重くなられたのかさえ、私は何も存じ上げないのです。こんなに親しい仲なのに、ただもうもどかしく腑に落ちないことばかりで」



 などと言うのだった。

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