柏木 その二十七

 昔から少しの隔てもなく仲良く付き合ってきた親友の間柄なので臨終の別れの悲しさ恋しさは親兄弟の心持ちにも劣らない。


 今日は官位昇進に来たのだから、元気になっていたらどんなにうれしいだろうと思っていたが、その甲斐もなくこの有様なので、夕霧はとても残念でがっかりしている。



「どうしてこんなに弱っておしまいになられたのでしょう。今日はこんなおめでたい日ですから、少しでもお加減がよくなっていらっしゃるかと思っておりましたのに」



 と、言って几帳の裾を引き上げる。



「まったく口惜しく残念なことに昔の私の面影はすっかりなくなってしまいました」



 と病人は烏帽子だけを髪を押し込むようにようやく被って、少し起き上がろうとしたがひどく苦しそうだ。着慣れて柔らかくなった白い着物を何枚も重ねてその上に夜具を引きかけて横になっているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る