柏木 その十三

 光源氏は、



「何といやなことをおっしゃる。どうしてそうまで思いつめられるのでしょう。お産というものはたしかにそのように恐ろしいものでしょうけれど、だからといってそれで死ぬと決まったものではないでしょうに」



 と言う。けれども心の中では、



「もし本気で出家を望まれ覚悟なさった上でそうおっしゃるのならいっそお望み通り尼になっていただいた上でお世話しながらも何かにつけて女三の宮がこだわり、気がねをなさるのがお可哀そうだし、自分としてもどうしても以前のように思い直すことができそうもない。つい女三の宮に対していやな態度をお見せすることもあるだろう。そんなことから自然人の目にも女三の宮を粗略にお扱いしているなど見咎められることになるだろう。それもあまりにつらいことだ。もし朱雀院のお耳にそうした噂が伝わればすべては自分の落ち度と思われるだろう。それならいっそ病気を口実にしてお望み通り出家をおさせしたものか」



 などと気持ちが傾くが、それもまたあまりに惜しく可哀そうで、こんなに若くて行く末豊かな黒髪を尼姿に削ぎ切ってしまうのも痛ましいので、



「もっと「強くお気持ちをお持ちなさい。心配なさることはありません。もう助かるまいと思われた病人でも持ち直した紫の上の例も最近あったことですし、無常とはいってもさすがに頼みがいのある世の中ですよ」



 などと言って薬湯をすすめる。女三の宮のとても青ざめやせ細って言いようもなくはかなげな様子でうち臥している姿はおっとりとして可愛らしく見える。どんなひどい過ちを犯したにしてもこちらも気弱くなり、許してあげたくなるような様子の人だと光源氏は思うのだった。

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