柏木 その十二

 夜なども光源氏はこちらに泊らないで昼などにちょっと顔を出すだけなのだ。



「人の世の無常の有り様を見るにつけて、私ももう先が長くないと思うと心細くなり勤行がちになりました。こうしたお産のあとはざわざわしているような気持ちがして心が乱されそうなので、ついお伺いもできないでいます。いかがですか、御気分は爽やかにおなりですか。お可哀そうに」



 と几帳の端から覗く。女三の宮は頭をあげて、



「もうやはり生きていられないような気がいたしますけれどお産で死ぬのは罪が重いと申します。この際尼になって、もしかしてその功徳で命がとりとめられるものか、試してみたいと思います。また死ぬにしましても尼になれば罪の消えることもあるのではないかと思いまして」



 といつもよりははるかにしっかりした大人びた態度で言うのだった。

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