柏木 その九
その夜は一晩中陣痛に苦しんだまま朝を迎え、朝日がさし上る頃に子が生まれた。男だと聞くにつけても光源氏は、
「こうしてあの件は秘密にしているのに男の子ならあいにくあの男と生き写しの顔で生まれていたとすればこまったものだ。女の子なら何かごまかせて多くの人に顔を見られることもないから安心なのに」
と思う一方、
「しかしまたこんなに辛く気掛かりな疑いのつきまとう子なら世話のかからない男の子が生まれて実際よかったのかもしれない。それにつけても不思議なことだ。今度のことは自分の生涯を通じて恐ろしく思ってきた秘密の罪業の報いなのだろう。この現世でこうした思いがけない報いに出会ったので、後の世で受ける罪も少しは軽くなるかもしれない」
と思う。
周囲の人々はそんな事情はまったく知らないので、このようにとりわけ高貴な人から、しかも晩年になって男の子が生まれたため若君への寵愛は格別すばらしいに違いないと心を込めて仕えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます