柏木 その八
灯火を取り寄せて女三の宮の返事を見ると、筆跡はやはり弱弱しくとても頼りなさそうだが、美しく書いてあって、
「病気とのこと、気の毒には思い、私も辛く思いますけれど、どうしようもありません。ただお察しするばかりで。『残らむ』とお歌にありましたけれど。
立ちそひて消えやしなまし憂きことを
思ひ乱るる煙くらべに
後に私だけが残るものですか」
とだけ書いてあるのを、柏木はしみじみ悲しくありがたいことと思う。
「いやもうこの煙くらべのお歌だけがこの世の思い出になるだろう。思えば何というはかないご縁だったことよ」
とますます激しく泣き、その返事を横になったまま休み休みに書く。言葉も途切れがちに筆跡も鳥の足跡のような見苦しさで、
「ああ、残念なことだ。何の疑念もさしはさむことなくこのお産に立ち会えるのならどんなに珍しくてうれしいことだろう」
と考えるが、人にはそんな素振りに悟られまいと思うので、修験者などを呼び、祈祷はいつ絶えるということもなく休みなくさせる。僧たちの中で法力の効験のあるものは残らず集まって加持祈祷に大騒ぎしているのだった。
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