柏木 その十

 産屋の儀式は盛大で人目を驚かす。六条の院の女君たちがそれぞれ趣向を凝らしたお祝いの品々は慣例通りの折敷、衝重、高坏などの意匠にもそれぞれに特に競争し合う様子だ。


 五日の夜、秋好む中宮から産婦の着物やお付きの女房たちにも身分に相応して配慮された適切な品々をそれぞれに贈った。それは秋好む中宮の公式のお祝いとしてずいぶん盛大に行われた。お粥、屯食五十組、あちらこちらでの饗応には六条の院の下役人たちや役所の庶務を司る下々の端くれにまで残りなく盛大に振舞った。


 中宮職の役人は大夫をはじめとしてそれ以下の人たち、また冷泉院の殿上人も皆参上した。


 七夜には帝からそれも公式のお祝いの儀式がある。前の大臣なども格別心を込めてお祝い申し上げるはずだったが、近頃は柏木の重態にかまけて他のことは考える心のゆとりもなく、一通りのお祝いの挨拶があっただけだった。


 親王たちや上達部などが大勢来た。こうした表向きの祝儀の有り様などはこの上もなく立派にして女三の宮を大事にしてあげるが、光源氏の心の中には面白くない気持ちがわだかまっているので、そう華やかにはおもてなしはせず、音楽の遊びなどはしないのだった。

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