若菜 その二九〇

 光源氏は二条の院にいたので、紫の上にも今はもうすっかり仲の切れてしまった人のことだからと、その手紙を見せた。



「これはなんともこっぴどくやりこめられたものだ。まったく我ながら愛想が尽きますよ。ずいぶんとさまざまな心細い世の中の有り様をよくも平気で見てこられたものです。世間にありふれたよもやまの事柄につおいてもとりとめもなく話し合ったり四季折々につけて興をもよおし情趣を感じたことを見逃さず知らせ合い、離れていても睦まじく付き合える人といっては朝顔の前斎院とこの朧月夜だけが残っていたのに、こんなふうに皆出家されてしまい、斎院と言えばまたとりわけ余念なく勤行一途に励んでいらっしゃるようですよ。やはり多くの女君たちの有り様を見聞きしてきた中でも思慮深くてしかもやさしくなつかしい点ではあの朝顔の斎院に比べられる人などはいなかった。女の子を育て上げるというのはなかなか難しいことだ」

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