若菜 その二八二
紫の上は、
「私はこちらで一人のんびりしていましょう。お先にあちらにお帰りになって女三の宮様のご機嫌もよくなったころに帰りましょう」
などと話し合っているうちに何日か過ぎてしまった。
女三の宮はこうして光源氏の来ない日々が過ぎていくのもこれまでは光源氏の冷淡な心のせいだとばかり思っていたが、今では自分の過ちのせいもあってこんなことになったのだと考える。朱雀院がこうしたことを聞き及べば何と思うことやらと世間も狭くなったような思いでいる。
あの柏木もひどく切なそうに思いのたけを絶えず書き送ってくるが、小侍従も面倒なことになってと怖れ心を痛める。
「こんなことがありました」
と光源氏に手紙を読まれた一件を柏木に報せたので、柏木はあまりのことに驚いて、
「いったいいつの間にそんなことが起こったのだろう」
こういうことは長く続いていれば自然に気配だけでも他に洩れて気づかれることもあるかもしれないと思っただけでもたまらなく身のすくむ思いがする。そうでなくても空に目があって何もかも見透かされているように恐ろしかったのに、ましてあれほど疑いようもない手紙の証拠を見た上は恥ずかしく畏れ多く、居たたまれない思いがする。夏の日の朝夕も涼しくない季節なのに、身も冷え凍る気持ちがして言いようもなく悲しく思ったのだった。
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