若菜 その二八〇

 光源氏はつとめてさりげなくしているが、何か鬱々と悩みの顔つきがありありと見えるので、紫の上は自分の命がようやくとりとめたのを不憫に思って六条の院から早々と帰り、そういう自分のせいで女三の宮のことを内心可哀そうに思って悩んでいるのだろうかと察し、



「私はもう気分がすっかり良くなりましたけれど、あちらの女三の宮さまが御病気だと伺いましたのにこんなに早々とおかえりになったのではお気の毒なことですわね」



 と言う。光源氏は、



「そうそう。いつもと違って加減が悪そうだったけれど、格別たいしたこともなさそうだったのでまあ一応安心して帰ってきました。帝からは度々お見舞いの使者があって、今日もお手紙があったとか。朱雀院がとりわけ女三の宮を大切になさるよう帝にお頼みもうしあげていらっしゃるので、帝もこれほどお心遣いなさるのだろう。少しでも女三の宮を粗略にお扱い申したりすれば帝や院がどうお思いなさるか、それが気にかかって」



 と嘆息するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る