若菜 その二五七
物の怪は、僧たちに厳しく調伏されて、
「皆のものはここから出ていきなさい。光源氏様お一人だけのお耳に申し上げましょう。私はこの幾月調伏されて懲らしめられるのがあまりにも情けなく辛いので、どうせ憑りついたのなら命を奪って思い知らせて安部用途思いましたが、さすがに光源氏様が命も危うくなりそうなほど骨身を砕いて嘆き惑う様子を拝見しますと私も今はこうしたあさましい魔界に生れておりますものの、昔のあなたへの恋の執着が残っておればこそここまで参ったのですから、あなたが悲しみのあまり取り乱している様子を見るに忍びなくて、とうとう正体を現しました。決して私だと悟られまいと思っておりましたのに」
と髪を顔にふりかけて泣く様子は、ただもう昔見た六条の御息所の物の怪とそっくりに見える。あのとき、情けなく気味が悪いと心にしみて感じたのとまったく同じ気持ちがするのも不吉に感じられ恐ろしいのでこの子供の手を捕らえて引き据え、無様な振舞いをしないように押さえているのだった。
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