若菜 その二五六

 光源氏も、



「せめてもう一度目を開けて私の目を見てください。あまりにあっけなくご臨終にさえお逢いできなかったことがたまらなく悔やまれて悲しいのに」



 と取り乱している様子はとても自分の命さえ保てそうにないので、それを見る側の人々の切なさはただもう察してもらうしかない。


 光源氏の極まりない傷心を御仏も照覧したのか、この幾月とんと現れなかった物の怪が小さな女の子に乗り移って大声でわめき始めた間に、紫の上はようやく息を吹き返した。光源氏はあまりにも喜ばしい一方、また死にはしないかと恐ろしくなり、心が騒ぐのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る