若菜 その二四四

 わなわな震えている様子で冷や汗も水のように流れ、今にも気を失わんばかりの顔つきは本当に痛々しく可憐でいる。



「私はものの数にも入らないつまらぬものですが、こんなにまでひどくお嫌いになられるようなものとも思われません。昔から身の程知らずにあなた様をお慕い申しておりましたが、ひたすら自分の胸一つに秘めたまま終わらせてしまえば自分の心の中だけにその恋を埋もれ朽ちさせることもできたでしょうに、かえって意中を口にしてしまい、それが朱雀院のお耳にも達しました。ところが朱雀院はそのとき、満更望みのないことのようにもおっしゃいませんでした。それでこの恋に望みをかけ始めたのです。それなのに、私の身分が一際劣っていたばかりに誰よりも深い自分の恋も取り返しのつかぬ詮無いことと思い返してみるのですが、いったいどれほど深く心に沁みついたものか、年月が経つほど残念にも辛く恐ろしくも悲しくもいろいろに悩みが深くつのるばかりなのです。とうとうこらえかねて、こんな身の程知らずの畏れ多い振舞いをお目にかけてしまいました。一方ではこんな行為はいかにも思慮のないことで恥じ入り、申し訳なく存じておりますので、これ以上大それた重い罪を犯す気持ちはさらさらございません」



 と言い続けるのを聞くうちに女三の宮は柏木だと気づいた。女三の宮はひどく心外で腹立たしく、また恐ろしかったので一言の返事もしなかった。

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