若菜 その二四三

 女三の宮の側のあたりはひっそりとして人の少ない折だった。いつもは側近くに仕えている按察使の君も時々通ってくる恋人の源の中将が無理に誘い出したので、自分の部屋に下がっていたときにただ小侍従だけが側に控えていたのだった。よい折だと思い、小侍従は柏木をそっと女三の宮の帳台の東の御座所の端に座らせた。本当はそうまでしなくてもよかったのに。


 女三の宮は無心に寝ていたが、身近に男のいる気配がするので、光源氏が来たとばかり思った。ところが男はいかにも恐れ畏まった態度で女三の宮を抱いて帳台の下におろす。女三の宮は夢に何か恐ろしいものにでも襲われているのかと精いっぱい目を開いてその人を見上げると、何と光源氏とは違った男なのだった。その男は妙な、何を言っているのか意味も分からないことをくどくどと言うではないか。


 女三の宮は気も動転して驚き呆れ、君が悪く恐ろしくなり、女房を呼んだが近くには誰も控えていないので声を聞きつけて来る人は誰もいないのだった。

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